CDとADのページ



イン・ア・マイナー・グルーブ/ドロシー・アシュビー
IN A MINOR GROOVE / DOROTHY ASHBY AND FRANK WESS

1958年録音(MONO) PRESTIGE

DOROTHY ASHBY,harp
FRANK WESS,flute
HERMAN WRIGHT,bass
ROY HAYNES,drums

サイモン&ガーファンクル SO LONG,FRANK LLOYD WRIGHT のフルートがとても好きで、これはきっとジャズのフルートに違いないと勘違いした僕は、レコード店で「一番フルートが主役になっていそうなジャズのレコード」を探し、これを手に入れた。期待とは少し違った雰囲気だったけれど、中学生だった僕はそんなにしょっちゅうレコードを買えないし、これはこれでいい感じだったので、何度も繰り返しきいた。
YOU'D BE SO NICE TO COME HOME TO を初めてきいたのもこのアルバムだったから、ヘレン・メリルやアート・ペッパーの演奏よりも、こちらの方が僕の中ではスタンダードになってしまっている。
他にも「ボヘミア・アフター・ダーク」や「ローマの秋」などの名曲が楽しめるし、ドロシー・アシュビーのオリジナルも素晴らしい。特に IT'S A MINOR THING のハープとフルートのスリリングなかけ合いは、この少し変わった編成のカルテットならではのものだと思う。



アフロディーテの祈り/中本マリ
APHRODITE / MARI NAKAMOTO

1979年録音 ZEN

中本マリ,vocal

三木敏悟,produce
NORMAN SCHWARTZ,produce

高田馬場のビッグボックスにビクターのショールームがあって、高校生の頃によく通った。ビクターの機器がきけるだけじゃなく、いつも何かしらイベントをやっていて、生演奏を見たり、いろいろなレコードをきくことができた。
ある日行ってみると「オーディオと音楽のクイズ」のようなイベントをやっていて、僕も暇だったから参加してみた。音楽クイズは、「クインシー・ジョーンズの愛のコリーダでギターを弾いているのは誰?」のような簡単なものばかりで、僕は全部できた。音楽クイズの全問正解は僕だけだったけど、オーディオクイズの方はいくつか間違えたので、僕ともうひとりの参加者が同点で1位になった。想定外のこの結果に、司会の人は困ってしまったようだ。結局、2人いた司会の男の人の方が、「ここはオーディオがメインだから、オーディオの方で点数がよかった人が優先」と言って、もうひとりの参加者に1位の賞品を渡した。でもこれには司会の女の人が反対で、「それは違うわ。オーディオも音楽も同じ」と、わざわざ事務所からこのレコードを持ってきて、僕にくれた。

全曲オリジナルのこのアルバムには、スティービー・ワンダーやドン・セベスキー、ミッシェル・ルグランといった、そうそうたる人たちが曲を提供している。これらの曲も素晴らしいのだけれど、僕はジャニス・イアンの書いた2曲が特に好きだ。こんないい曲が書けるのなら、自分のアルバムで歌えばいいのにと、余計なことを思ってしまうくらい。
ところでこのアルバム、今だにCD化された形跡がない。スウィング・ジャーナル誌のディスク大賞特別賞受賞と書いてあるくらいなのだから、CDを出してくれてもよいと思うのだけれど。ADプレーヤーが壊れている間、きくことができなくて困った。

……と書いたら急に高田馬場に行きたくなり、本当に久しぶりに行ってみた。レコード店のムトウに寄ると、ありました、このアルバムのCD。だから、上の「CD化された形跡がない」は間違いでした。これまで長いこと、いろいろなレコード店で探していて見つからなかったのに、不思議というか、さすがムトウというか、とにかくうれしい。僕にとってムトウは昔から欲しいレコードが揃っている店で、ECMのドイツ盤が石丸より充実していてしかも安かったり、欲しかったアル・ディメオラの輸入新譜が早く手に入ったり、うれしい思い出がたくさんある。そういうお店だから、今でも流行っているようで、これもとてもうれしい。



カモン・カモン/シェリル・クロウ
c'mon,c'mon / SHERYL CROW


2002年リリース A&M

モーツアルトだってマイルスだって、その時代で「一番かっこいい音楽を作ってやろう」と思っていたに違いない。なんだかんだ言ったって、音楽はかっこよくなくっちゃ始まらない。
シェリル・クロウは、今のシーンで最高にかっこいいロックを演っているミュージシャンだ。このアルバムでも、頭のてっぺんから足の爪先まで完璧に磨き上げたスーパーモデルみたいなロックをきくことができる。




ソングス・フォー・ザ・ギター/
      クリスティナ・ヘグマン、ヤコブ・リンドベリ
Songs for the guitar / Christina Hogman,Jakob Lindberg

1985年録音 BIS CD-293

Christina Hogman,soprano
Jakob Lindberg,guitar

1990年12月9日、僕は雑誌の企画で長岡鉄男さんの方舟に伺わせていただいた。これは素晴らしい経験だったのだけど、その鮮烈な音に、「とてもじゃないが、何か大事なものを捨てない限り、僕にはこのレベルにたどり着くことはできない」と思った。結局、それから10年間、僕はオーディオから少し距離を置くことになる。

そのときにきかせていただいたソフトの1枚がクラシックギターとソプラノ独唱のCDで、その信じられないくらい美しい声とギターの音に目を見張った。今、長岡鉄男さんというと、自衛隊の実射演習録音など音楽以外のことが語られがちだけど、そこでは間違いなく、素晴らしい音楽がつむぎ出されていた。
でも残念なことに、緊張していた僕はソフトの題名を長岡さんに聞くことができなかった。長岡さんが亡くなられた今となっては、それはもう確かめようもない。だから僕は今、誰かにきかせてもらったソフトをいいと思ったら、ちょっと恥ずかしくても必ずメモを取らせてもらうようにしている。偶然の出会いに2回目なんてものはないのだ。たとえ相手がCDであってもね。

このCDは、方舟訪問後ほどなく購入したものだけど、同じものであるかどうかはわからない。でも、この演奏と録音だったら、もしあの時の方舟で鳴らすことができたなら、同じように感動させてくれるに違いない。そしていつか僕の部屋で、あの高みの片鱗でも表現することができたならと、今の僕は思っている。




ポール・サイモン・ソング・ブック/ポール・サイモン
The Paul Simon Song Book / Paul Simon

1964年録音(MONO) CBS SONY SONX 60054

高校で同じクラブだったノリタケくんは、顔がちょっとポール・サイモンに似ていて、僕以上にサイモン&ガーファンクルのファンで、このLPもちゃんと持っていた。僕は彼から借りたLPをカセットに録音してきいていたから、自分で買うのはついつい後回しになっていて、そうこうするうちにどのレコード店でもこのLPを見かけなくなってしまった。暫くしてその理由が、ポール・サイモン本人の意向で廃盤になったためであることを知って、であればもう発売されることはないだろうから、早く手に入れておけば良かったとずいぶん悔やんだ。それから20年くらい経つけれど、当然のことながらCD化されることもなく、今に至っている。

カセットはずいぶん前から行方不明だし、ノリタケくんも大学を卒業してから行方が知れないし、もう二度ときけないのかとあきらめかけていたら、インターネットのおかげで手に入れることができて、今日届いた。すごくうれしい。
僕が知っている盤は、ポール・サイモンと女の子が川辺で人形遊びをしているジャケットだったけど、これは本人のポートレート。中身は同じものだ。

このアルバムはサウンド・オブ・サイレンスがヒットする前、イギリスに渡ったポール・サイモンが録音したもので、ほとんどギター1本と唄だけの演奏。サイモン&ガーファンクル名義のアルバムにも収録されている曲が多いけれど、こちらの演奏はシンプルでストレートで怒りに満ちていて、ひどく孤独だ。それはまるで、僕らが以前経験したもの、誰もがかつて経験した「何か」を、そのまま切り取ったかのようで、だからこそポール・サイモンはこのアルバムを回収したのかも知れない。

2002.11.19

補記:2004年春、ノリタケくんと再会を果たした。これはオーディオをやっていたおかげだ。とてもうれしい。そして同じ頃、このアルバムのCDが発売された。



スリーピング・ジプシー/マイケル・フランクス
sleeping gypsy / Michael Franks

1977年リリース Warner

大学のジャズ研の先輩、ギターのHさんは掟破りの16ビートが大好きで、ごきげんな4ビートをやれる腕を持ちながら、「オレは16(ビート)をやりたいから」と言って、レギュラーにならなかった。ステージでは自分のオリジナルの間に1曲だけマイケル・フランクスを混ぜるのが好きで、終演後に「3曲目はマイケル・フランクスでしたね」とか言うと、「ばれた? くそーっ」と悔しがってくれた。

マイケル・フランクスを初めてきいたのは、高校1年の夏だったと思う。FMから流れてきた「アントニオの歌」に文字通りノックアウトされた僕は、すぐにレコードを買いに家を出た。

マイケル・ブレッカーも、デビッド・サンボーンも、ラリー・カールトンも、初めてその名前を意識してきいたのがこのアルバムだ。それから3年後にジャズ研に入ったのも、全ての始まりはこれ。
だから、僕の中にはこのアルバムの理想の鳴り方というのができあがっていて、レコードをききながら、装置に向かって「そこがちがーう!」などと、独りでつっこみを入れてしまう。

2003.03.21



ハウズ・エヴリシング/渡辺貞夫
HOW'S EVERYTHING / SADAO WATANABE

1980年録音

渡辺貞夫,as,sn,fl
デイブ・グルーシン,key
エリック・ゲイル,g
リチャード・ティー,p
スティーブ・ガッド,ds
アンソニー・ジャクソン,b
ラルフ・マクドナルド,per  他

1980年7月、武道館で行われた渡辺貞夫のコンサートは100人規模のオーケストラを従え、スティーブ・ガッド、アンソニー・ジャクソン、リチャード・ティー、エリック・ゲイルなど最高のメンバーを起用したものだった。このライブは2枚組のLPでアメリカのCBSから発売されたし、今でもCDできくことができる。

僕は、当時FMでやっていた「渡辺貞夫マイ・ディア・ライフ」という番組のプレゼントに申し込んでチケットを手に入れ、友人と2人でききに行った。アフリカン・フレーバーの匂い立つその音楽はエキゾチックでホットで、むせかえるように暑い夏の夜の香りと溶けあい、きくものに魔法をかけた。

この後、9月にはメンバーを多少入れ替えつつロサンゼルスのロキシー、ニューヨークのボトムラインでライブが行われ、その模様は日本でもFMで放送されている。ロキシーではリー・リトナーが参加し、彼が入るとバンドの音がすいぶん変わっちゃうんだけど、それでも全盛期だったリトナーのプレイは凄まじい。「NO PROBLEM」でのソロなどはもう圧巻で、一生懸命コピーしたものです。あんなの、もう弾けないけど。

2003.08.17



モントルーII/ビル・エヴァンス
Montreux II / Bill Evans

1970年6月録音 CTI 6004

BILL EVANS,piano
EDDIE GOMEZ,bass
MARTY MORRELL,drums

1970年6月、モントルー・ジャズ・フェスティバルでのライブ。ベースはエディ・ゴメス、ドラムスがマーティ・モレル。

この2年前、68年に同じ場所で演奏したアルバム「モントゥルー・ジャズ・フェスティヴァルのビル・エヴァンス」が有名だが、僕はこの「II」が好きだ。ビル・エヴァンスの刹那的な疾走感。ゴメスがときに伴走、ときに追走し、モレルが不思議な不安定感を醸し出す。あと何かひとつでも力を加えたら崩れ落ちてしまいそうな、切迫した美しさ。これに比べると68年の演奏は、ドラムスが名手ジャック・ディジョネットということもあり安定しているけれど、やりたいのはそういうことではないのではないか、という気分が抜けない。

録音はスイス・ロマンド放送局。Rerecording by Rudy Van Gelder のクレジットと、盤面の刻印から、CTIレコードがヴァン・ゲルダーにカッティングを含め音作りを依頼したことがわかる。放送局による録音はそれほどよいものではなかったようで、苦労が偲ばれる音だが、オールRVGの作品とは違った独自の魅力ある仕上がりになっている。

2005.04.02


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